雨は降る
まるでこれからも延々と落ち続けるつもりのようである

雨落つる
分厚い水の膜がこの大地の遥か上空を覆い引力に負けて落ちてくる

 

僕は常に地球の重力に負けている

 

少年アリス
     〜サツキバレマチガイスワルマチ編A〜

 

 

友はただ
水気のなくなった僕の髪に触れているだけである

僕の頭は友の膝の上に乗っている
これが地球の重力のせいなのか
彼の引力のせいなのかはわからない
でも、正直言って

微妙に絶妙な高さの友の膝に頭を預けているのは
変に寝転んでいるよりも大分楽だ

「ずっと頭を撫でているだけで暇じゃないのかい?」
僕がどこを見るでもなく尋ねると
「頭じゃないね、髪だ」
友はそう答えた
「髪でも頭でも一緒だよ」
そう言うと同時に起き上がろうとしたが
友は無言で僕の頭を自分の膝に戻した

 

「暇じゃないのかい?」
「暇じゃあないんだ」
「膝枕って言うよね?」
「言うよ」
「ここは本当に膝?」
「違うね、そこは太股だから」
「では何故膝枕と?」
「さあ」

雨の中の家の中の部屋の中で二人だけの声が響く
二人の話す声以外に聞こえるのは
ただただ雨の落ちる音のみ
まるで自分が雨の中にいるような錯覚に陥る

友はただ僕の髪を撫でる
僕はただ友のしたいようにさせてみる

そういえば
そういえば、だ
「そういえば、さっきは何故僕を服のまま浴槽の中に引きずり込んでくれたのかね?」
僕は髪を撫でられながら「服のまま」と言う所で声を当社比で少しだけ大きくして
友に尋ねた

友は答えない
聞こえない振りでもしているのだろうか
それともいつの間にかだんまりゲームが始まっていたのか
それなら僕が負けになるのか
勝手に始めるだなんて卑怯にも程があるな
僕はそう思ったが
その確立は3%にも満たないだろうと思い直すことにした

「さっきと同じ質問をrepeatで」
僕がそう言うと
やっと友の重い口が開いた
「雨の日は」
雨の日は?
「一人だと寂しくて」

 

辛くなるんだ

 

ただそれだけの理由
それでも重要な理由
それでも大切な理由だ

 

「でも君は雨が好きだと言っていたね?」
「言ったね。いや、言ったかもしれないね」
「ややこしいよ。君は確かにそう言ったね?」
僕が頭の向きを変えて友の顔を見上げるような体勢になると
友は視線を僕の髪から僕の目に移し
「確かに言った」
そう答えた

「君は雨が好きなのに寂しくなる?」
「雨が好きでも寂しくなる事だってあるさ」
「雨が好きなのに辛くなるの?」
「辛くなるのは雨のせいじゃなくて寂しいせいさ」
根本は同じだと思うのだけど

 

「では僕は君の寂しさを紛らわせる為だけに浴槽に引っ張り込まれたという事?」
「簡潔に言えばそう言う事になるね」
僕の口からは思わず溜息が出た

「呆れたかな?」
「別に」

 

「君も寂しかったんなら、そう言えば良いのに」

友は僕の心を読んだと言うかのように
僕の目を自分の手で塞いでそう言った

「それは君の希望的観測にしか過ぎないね」
僕がそう言うと
友は少し笑ったようだった

「さてその希望的観測は的中するかな」

友が問う

結果は誰にもわからない

 

でも
だけど
それでも
ただ
ただ、今僕の頭が友の足に乗っかっている事
ただ、僕が何もせずに大人しく友に髪を触らせている事

そのことから結果は導けるかもしれない

 

 

「早く雨が止まないかなぁ」
「僕は雨が好きなんだけどね」

「だって雨だとファンタジィを味わえないからね」
僕が笑うと
友は僕の目から自分の手をどけて

そして同じように笑った

 

「でも結構ファンタジィかもしれないな」