秋は澄みて秋に棲みて

水澄む空に秋水が棲む

透き通った声で鳥が鳴いた

ぴいっと鳴って空澄みに舞う

空が光った

いや
違う

大気が光ったのだ

 

少年アリス
     〜アキハスミ

 

「ああ、ああ」
横で唸る友を見る

背もたれに背を首を預け気だるく空を仰ぐ

「なんだいだらしがないな」
僕は視線を正面へと戻し右隣に置いた鞄から飴を取り出した
「痛いよアリス」
その飴を投げ付けるように渡しながら自らも橙色の包みを摘まみ上げる

「なんなんだいいったい」
僕の左の目は目としての機能を果たす事がない
だからきちんと顔を友に向けるようにして彼を見た
友はぽかんと口を開けたまま、まだ空を見上げていたが
少しすると頭の位置を通常に戻し僕を見た

「ねえ、ねえアリス」

最近友は少し背が伸びたのか前よりも更に僕を見下ろしている
座っていても見下ろしているのだから僕としては立つ瀬がないというものだ

「なんだい君やはり背が伸びているよね」
「そうなんだよ夏が終ってしまったんだ」
友は僕の文頭だけに答えた
「知っているよ今日の秋だって一緒に居たのだから」
僕がそう言うと友は「違いない」と笑う

 

空を仰ぐと澄んだ秋特有の空に、負けないくらい澄んだ水が群れをなして流れている
「一雨来そうだ」
「良いじゃないか」

「ぼくはあめがすきだよ」
僕は空を見上げていたから見ることはしなかったが
きっと友の顔は笑っていないのだろう

「ねえ君最近新しいファンタジーは仕入れていないのかい」
空をいざよう水の塊を目で追う
「今君が見ているものが只今最新のファンタジーだよ」
僕が見た友は笑っていた

嬉しそうに

楽しそうに

これ見よがしに

 

「随分集まってきているよアリス」
友がまた空を見上げてそう言い
言うが早いか見るが早いか
雨が降る

「アリス、中に」
「いや良いよ」
友が僕の手を引くが僕はそれを低調だが丁重に断った

はたりと水が落ち
周りの大気と世界が澄んだ
まるでレンズの中に居るようだ

大粒の雫が頭上に落ち

花に落ち

葉に落ち

 

「アリス濡れるよ」
「良いんだよ」
なんとなく
雨が好きだという友の気持ちが分かった気がした

「これも秋の声というのかな」
友はいつかのように僕の髪を艶やかにコーティングしている水滴を拭いながら
「ん?」
返事をした
「秋の声だよ」
「そうだね雨の音は意外と響くね」

はたりはたりと雨は降り続け
土に降り出来た水溜りに跳ね返って水玉を描き波紋を描き
また大きな水溜りを作る
ひゅうっと雨の間を縫うように風が吹いた気がした

外はもう夕も暮れて星が出そうだ
空を清い水が覆って青は濃く色付き
夕暮の色をも変え
きらめく星が微かに滲む

 

ああ、こんな星の日には、君がいとしくてたまらなくなる